実は、かねてから「何かひとつ、楽器を演奏できるようになりたい」との思いがありました。
とはいえ、ギターやピアノはまったく経験がなくハードルが高いので「今さら難しいなぁ」と考えていたところ、ある朝、新聞でこの楽器を紹介する記事を見かけたのです。電子サックスと言えば、ややイメージしやすいと思いますが、本格的なサックスのようにブレスやリードの扱い方を学ばなくても、小学校や中学で吹いたリコーダーの運指ができれば演奏できるという電子楽器です。
ただ、楽器だけを購入しても独学で習得するのは難易度が高いと感じ、レッスンを受けられるところはないかと探したところ、近くの楽器店で専任講師によるレッスンを行なっていることが分かり、週に一回サックス奏者の講師が基本から教えてくれると言うことで、楽器を購入すると共にレッスンを申し込みました。
GWの間、テキストに付いていたDVDを見ながら自習に取り組み準備をして初回のレッスンに臨み、今は正確なテンポで安定した音を出したり、ハ長調の運指など基礎の基礎から教えてもらっています。平日はなかなか時間が取れないので、週末にあるレッスンの前後に予習復習をし、4回ほどの受講を経てようやく最初の課題曲「かごめかごめ」にたどり着いたところです。
譜面を見ながら音符をもとに音階と長さを識別して指を正しく動かす訳ですが、これが簡単なようでなかなか難しく、今のところはミスをしてはガッカリする連続です σ(^_^;)
電子楽器の良いところは、ヘッドホンを付けて自宅で手軽に練習できることですね。リアル楽器だとそうはいきません。レッスンに訪れるリアル楽器の生徒さん達は、自習のためにブースを借りています。カラオケボックスなどでも練習するそうですね。私もいずれは一曲、上手に吹けるように練習を続けたいと思います。
さて、あれはまだ私が20代の頃ですから30年以上前のことになりますか、目上の知人に盲目の方がいまして、鍼灸師として生計を立て、ご家族を養っておられました。当時は、盲目の方は鍼灸師になるのが自然とされていたのです。
この方、実は英語が好きで懸命に学習して、会話を身につけられました。子供の時にアメリカ人が話す英語を初めて聞いて、そのリズムがとても楽しくて「なんとか自分も話せるようになりたい」と憧れたそうです。目が見えないので当然ながら文字情報は限られ、耳から入る音の情報を中心に英会話を習得されたと伺い、私は大いに驚きました。外資系企業である当社で働き始めたばかりで、まだ英語ができなかった私は、その必要性を感じていながら実際には勉強に手をつけていませんでしたので、それではいけないと反省し英語の学習を始めました。
NHKに「ドキュメント72時間」という番組がありまして、ご存じの方もあるでしょう。72時間の間、ある場所を訪れる人を定点観察するという、地味な内容なのですが、そこに浮かび上がる様々な人生模様をいたわりのある視点から丁寧に描写しています。
20年に都内の楽器店を舞台にした放送がありました。コロナ禍で演奏会が中止になったり、色々な制約の中で明日への方途に頭を抱える若い音楽家などの姿を紹介しつつ番組が進みます。その回の後半で、76歳の盲目の個人音楽講師が奥様に伴われて来店しました。1960年代の初め、18歳の時に盲学校で音楽を知り楽器演奏がたいへん好きになって、点字の楽譜を頼りにサックスを学んだそうです。盲学校を卒業する時、鍼灸師になることを勧める周囲をふりきって音楽の道へ進むことを誓い、おそらくは(我々には想像もつかないような)非常な努力の末に、音楽大学を卒業してサックスの講師になりました。
それから40年近くが過ぎ、この方が50代の後半の頃、ある時、他の音楽教室の受講を断られた自閉症の男性からクラリネット教授を頼まれ、専門ではありませんでしたが引き受けました。その自閉症の男性は授業を楽しみに通ってくるので、「楽器を奏でる楽しさを知って欲しい」一念で20年に及ぶクラリネット教授を続けているとのこと。今の自分の年齢から20年先までの話と思うと、気が遠くなりそうな時間の長さです。
この老齢の音楽家は自閉症の男性との音楽を通じた交流について訥々と語り、やがて「自分がいなかったら彼はどうなっていたか」と独りごちた後、長い長い沈黙を続けました。「音楽がなければ自分はどうなっていたか」との思いが胸に去来していたのかも知れません。
これから20年、自分自身が利他的に生きられるか、誰かの人生に寄与する後半生にするための生き方について、よく考えて歩んでいきたいと思います。
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